23  、おばあちゃまの鏡は美女鏡?


 女子高生が相談したいことがあるとK社を訪れた

  



 くら子が外出から帰ってくると、事務所のドアの前で考え込んでいる今どき珍しいセーラ

ー服姿の女子高生がいた。

 ドアにはプレートがあるのだから、他の会社と間違うこともないはずだがと思い、声をか

けた。

「何かご用でしょうか」

「あの、わたし、相談したいんです」

中高年の女性が相談ということならば今までにもあったが、女子高生が何を相談したいのだ

ろう。恋愛相談などしに来ないだろうし、いじめや学校のことを話しに来たのでもないだろ

うし、好奇心からどうぞ入ってと促した。

「おかえりなさ〜い、あら、お客様ですか」

まろみもくら子の後ろの女子高生にどうして? という顔をしている。

 くら子はソファーをすすめ、自分も腰を下ろして聞いた。

「ここ何日か、ビルの前で行ったり来たりしてたよね」

「はっ、はい、どうして…」女子高生は固まった。

 オレンジジュースを運んできたまろみも腰を下ろし、ふむふむと首を振ってから言った。

「そうなのよ。この人は怖い人でね。実は魔法使いのおばあさん」

「まろみちゃん、女子高生を脅かしてどうするのよ」

 あの、私やっぱり帰りますと腰を浮かした女子高生にまろみが冗談よ。

ここは魔女の館でねとニッと笑った。

 いいかげんにしなさいとくら子が一喝した。
 




 女子高生は夏目みかると名乗った。相談というのは祖母の遺品のことだそうだ。

「うちのママ、いえ母とおばあちゃま、じゃなくて、そ、祖母とですね」

「お友達と話すように、ママとおばあちゃまでいいわよ」

くら子の言葉に、みかるはほっとしたように顔を上げた。

「おばあちゃまが死んだとき、わたしはまだ子どもだったからよくわからなかったけど」

あなたもまだ子供じゃないのということばを呑み込んで、くら子はうなずいた。

「おばあちゃまの荷物をママは全部裏の蔵に放り込んで、カギをかけて開けさせてくれない

から」

「どうして?」

「わからないけど、あんな人のモノに触っちゃいけないって」

「少し、おうちの事情を聞いてもいいかしら?」

みかるはこくんとうなずいた。

「ママとおばあちゃんは仲が悪かったの?」

「うん、でもお婆ちゃま、みかるにはやさしかった」

女子高生が祖母の遺品のことを気にするのは珍しい。それもわざわざ相談に来るというのは

よほどのことか。とにかく、話を聞くしかないとくら子は思った。

「それでみかるちゃんは、おばあちゃまの遺品をどうしたいの?」

下を向いてギュッと唇をかんでいたみかるが顔をあげて小さな声で聞いた。

「絶対、笑わないですか」

くら子が答える前にまろみがうれしそうに口走った。

「笑わない、笑わない、だいじょーぶ」と言いながらまろみの頬がゆるんでいる。

これだから信用できないという風にみかるが首をかしげた。

「どうして笑うと思うの?」

くら子の問いに、みかるはうんざりしたようにつぶやいた。

「だって、誰も信じてくれないもん」

信じます、信じますと、まろみが身を乗り出した。

大きく息を吸って、まるで誰かに聞かれては困るようにみかるはささやいた。

「おばあちゃまは鏡を持っていたのです。それも普通の鏡じゃなくて…」

「えーっ、もしかして、『鏡よ鏡、世界で一番美しいのはダーレ?』だったりして」

まろみの目が輝いたが、みかるはやっぱりという顔で肩を落とした。

「うるさい! まろみちゃんは黙ってなさい。ごめんなさいね。口を挟まずにお話を聞きま

すから」 

 少し考えて、みかるは続けた。

「おばあちゃまの鏡は、人の心を映すんです。意地悪な人や邪まな人が見ると、鏡がくっき

り映らず、灰色にぼやけて顔が見えないのです。おばあちゃまは人殺しなんかする人だと、

墨を塗ったみたいに真っ黒になって何も見えなくなるんだよって言ってました」

一点のくもりもなく、真正直に生きている人間などこの世にいるだろうか。

「みかるちゃんはその鏡を見たことあるの?」

みかるは首を振った。

「ちらっとだけです。子供は鏡をのぞいてはいけないって。向こうの世界に吸い込まれるの

だそうです。おばあちゃまとその話をしていた時に、ママが廊下で立ち聞きしていたんで

す」

あら、まあ、と声を出したまろみは、くら子ににらまれる前に両手で口をふさいだ。

「その時、おばちゃまはママに聞こえるように言ったんです。人の話を立ち聞きするなんて

性根の腐った人のすることだから、みかるはそんなことをする人間になってはいけないよっ

て」
 




 嫁と姑の仲は昔から悪かったらしい。いや、仲のよい嫁姑の方が少ないだろうが、これは

なかなか手厳しい。しかしわざわざ相談に来たみかるの真意はまだわからない。

「それで、みかるちゃんはどうしたいの?」

「わたし、このごろおばあちゃまの夢をよく見るんです。鏡の箱を大事そうに抱えたおばあ

ちゃまはどこかの神社をうろうろ歩いているのに、迷ったみたいにどこへも着かないで、ぐ

るぐる回っているんです」

夢判断を求めるには来るところが違うし、夢の中のおばあちゃまに行先を教えることもでき

ない。

くら子の思いとは反対に、わかったとまろみが手を打った。相変わらず騒がしい。

「それは夢のお告げかも。みかるちゃんがその鏡をどこかの神社に納めればいいのよ。そう

すれば鏡よ鏡ってこわい話もおしまいになるし」

「まろみちゃん、無責任なことを言わないでよ。ところでみかるちゃんはその夢のせいで、

鏡のことを考えたのね」

みかるはこくりとうなずき、何度か蔵のカギを開けようとしたがうまくいかなかったと肩を

落とした。

「お父様には相談したの?」

「パパは東日本の地震があってからずっと仙台に行ってます。仕事が大変そうなのに、こん

なこと言えないです」

「蔵のカギを開けて、鏡を持ち出してどうするつもりだったの」

「どうするって、鏡を見れば、どうすればいいかわかると思って」

ほら、出たというまろみの声を無視してくら子は考えた。

「もしもよ、もし、みかるちゃんが鏡をのぞいて真っ黒だったら、どうするの」

「そんなこと、ありえません」

どうしてそこまではっきり断言できるのか、そこがポイントだと思ったくら子はみかるに提

案した。

「蔵のお宝がどれくらいの価値があるのか鑑定しませんかという話が来たら、お母様はなん

とおっしゃるかしら」

そこに母親の顔があるように宙をじっと見つめたみかるはぼそりといった。

「ママはガラクタばかりだって言ってる」

ふつうはそうね、そこをなんとかできないか。

「そうだ!」とくら子が手を打った。

まろみは内心、くら子さんだってうるさーいと思っている。

「おばあちゃまは、古いお札や硬貨を残しておられないかしら」

「はっきりわからないけれど、たぶんあると思います。子供の時に、500円札とか見てびっ

くりしたし、昔のお金もあったと思います」

「では、それでいきましょう」

「は? どこへ行くんですか。私を置いてかないでくださいよ、くら子さん」

「まろみちゃん、出かけるわよ」

あ、あの、わたしは? とみかるが戸惑っているので、まろみは腕をつかんで、行くに決ま

ってるでしょ、ハイ鞄を持って行くのよ。

 10分ほど歩いて駅前の書店に着くと、くら子は店内の検索機で調べ、棚に向かった。

1冊の本を手に、レジで支払いを済ませたくら子はにっこりした。

「これこれ、これよ。さてと、お茶でも飲みましょうか」

くら子の後を追いながらまろみが小声でささやいた。

「みかるちゃん、この人と仕事をするとけっこう疲れるのよ。私の苦労もわかるでしょ」

みかるは黙ってうなずいた。
 




 飲み物とクレープを注文してからまろみが聞いた。

「なにがどうなってるか、さっぱり見えません」

「これから説明するわ」とくら子は書店の袋から『日本貨幣カタログ』を取り出した。

「ところでみかるちゃん、社会か歴史でレポートを書く課題はないかしら」

「自由課題ならありますけど」

それそれ、それよとくら子は本を開けた。

「古銭、古いお金と歴史を調べてレポートを書くために蔵に入る必要があるとお母様に話す

の」

くら子は『日本貨幣カタログ』を開いて説明した。同じ硬貨でも、作られた年によって価値

が違うのよ。300円の物もあれば5,000円の値が付く物もあるの。作られた枚数が少ないと

か、いろいろな状況によってね。だから、その貨幣のできた社会背景とか、図柄もなぜそう

なったのかとか、興味を持って調べてみると面白いかもしれない。レポートにすれば学校に

も出せるし、蔵に入る口実になると思って」

半信半疑で戸惑っていたみかるの顔が明るくなった。

「学校の課題をするっていうことなら、ママも調べてもいいというかもしれません」

そこでと、くら子はまろみをじっと見た。

「まろみちゃんのセーラー服姿は…」

「えっ、もしかして私が、ウフ、コスプレみたい」

まろみは胸を突き出してポーズをとった。

「まろみちゃん、勘違いしないでね。ひとりで探したり片付けるのは大変だから、お友達と

いうことでまろみちゃんに手伝ってもらおうかと思ったけど、みかるちゃんの同級生という

には無理があるわね。かといって、私たちが押し掛けるとお母様が怪しまれるだろうし」

「大丈夫です。おばあちゃまのモノだから時間がかかっても一人で探します」

くら子が心配なのは怪しい鏡のことだった。鏡がみかるの話通りのものかどうかは別にし

て、どのように扱うか、そこが問題だろう。

コインはいいアイデアだと思ったんだけどなあと、くら子は腕を組んで考え込んだ。

 まろみはみかると機嫌よくイチゴのクレープを食べている。

「鏡の大きさはどれくらいかな」

みかるは皿に残っているもう1枚のクレープをフォークで広げた。

「これくらいのような…難しいです」

「子供のころの感覚って、今とは違うでしょうからね」

みかるは興奮して乗り出した。まろみもうれしそうだ。

「じゃあ、すぐにママに話して、初めていいですか」

「鏡のことが気になるから、ちょっと待ってもらえるかな」

えーっと、二人は不満の声を上げた。

「しーっ、お静かに。もし、その鏡が見つかったらみかるちゃんは箱を開けたくなるでしょ

う」

はい、と力強くうなずくみかるに、くら子はだから危ないのよとまた腕を組んだ。

「浦島太郎みたいに箱を開けたら…みかるちゃんがおばあちゃまになってるとか」

「いやだ、まろみさん、変なこと言わないで下さいよ」

みかるは肘で隣のまろみをつついた。

「とにかく、少し待ってね。それまではレポートを書くために、このカタログで古いお金で

も見といてね」

みかるは不承不承わかりましたと言った。

 事務所に戻ったくら子は、一度鏡について調べてみようと思い、ネットで資料を探すこと

にした。

「鏡について」で検索すると、内視鏡のなんとかという医療関係の本ばかりが出てくる。

 そういえば、先月半ばにバリウムを飲んだ胃の検査結果は、要再検査だった。胃カメラの

予約をするようにという診療所からのお知らせをそのままにしていることを思い出した。忘

れずに手帳に書いておかなくては、と気の向かない予約を先のばしにしていることに苦笑す

る。

しかし今はとにかく、やりかけていることをと、図書館のネット検索で「鏡の歴史」と入力

した。

ぴったりのタイトルが画面に現れた。

 マーク・ペンダーグラストの『鏡の歴史』のまえがきによると、鏡はそれを見る者がいて

初めて意味を持つと書いてある。なるほど、確かにそうだ。

 この本をすぐ読みたいと思い、くら子は近くの図書館の蔵書を検索した。

 あった、今、図書館にある。

これから図書館に行ってくるわと飛び出したくら子を、まろみは声もなく見送った。
 




 本を手に事務所に戻りくら子は読み始めた。

 有史以前から人間は鏡に魅かれ、大昔、エジプト人、インド人、中国人、マヤ人、インカ

人、アステカ人…は金属や石でできた鏡を死者とともに埋葬した。

 中世には、鏡は神々または悪霊の領域への入り口とされ、神秘的な未来をのぞき見る鏡面

占いに使われた。みかるの祖母が持っていた鏡はこの類だろうか。

 真剣に本を読んでいるくら子に、まろみがおそるおそる声をかけた。

「くら子さん、今日は金曜日です」

「そうね、それがどうかした?」

「明日、明後日は休みです」

「当たり前じゃないの、変なまろみちゃん」

「変なのはくら子さんです。鏡に取りつかれたんじゃないですか」

「どうして」

「冷蔵庫に、みかるちゃんが持ってきてくれた生チョコケーキがあるのを忘れているからで

す。今日中に食べなければいけないと思います」

 生チョコケーキを頬ばりながら、まろみが聞いた。

「くら子さん、やけに鏡にこだわってますね。図書館へ行って本まで借りてきて」

「実はね、わたしも昔同じような話を祖母から聞いたことがあるの、だから気になって」

「くら子さんちにもあったんですか」

「いえ、話だけなのよ。小学生のころ、夏休みに母の実家へ行った時、祖母の手鏡で遊んで

いたら、鏡を割ってしまったの」

「怒られました?」

ううん、とくら子は首を振った。

「おばあちゃん、わたしを抱きかかえて、『この子はどこへもやらん』って叫んだの」

「誰に向かって叫んだんですか」

「あの時は意味がよくわからなかったんだけど、散らばった鏡の破片に向かって言ったよう

な気がする」

「そのあとのことは記憶にないの。次の日くらいにおばあちゃんが鏡は人の心を映すから、

粗末にしてはいけない。そこで、昔々、あるところにという話が始まって」

「桃太郎ですか」

「それが、みかるちゃんの話と似たような鏡の話だったの」

「どうしてその話をみかるちゃんにしなかったのですか」

「火に油を注ぐようなものでしょう」

 この後、3日間2人はセミナーの準備で時間がなかった。
 




「あれ、みかるちゃんからメールが来てる」

スマホの画面を見つめて、やっちまったよとまろみがつぶやいた。

どうしたのとくら子が声をかけると、大変ですと答えた。

「なにが?」

「みかるちゃん、ひとりで蔵に突入しました」

「あらまあ、それで、なんて?」

「パパが足を捻挫して動けなくて、ママが急に仙台に行ったので、チャンスだと思って鍵を

探して入ったそうです」

「それで、見つかったの」

「それらしき箱を見つけたけど、やっぱり怖くて一人で開けられないそうで、来てほしいっ

て」

「乗りかかった船か、仕方ないわね、行きましょう」

タクシーに乗り、運転手にてきぱきと住所を教えるまろみを見ながら、くら子はしみじみま

ろみの成長を嬉しく思った。

「ニタニタして、どうしたんですか」

「いや、まろみちゃんも大人になったなと思って」

「いやだ、くら子さん。事務所に入った時からわたしは、お・と・な、でした」

「そうかしらねえ、はじめは電話が鳴ったら、きゃって、飛び上がって逃げてたじゃない」

そりゃあまあ、そうですけどと唇をすぼめて、まろみは話題を変えた。

「ところで、わたしはくら子さんのおばあちゃんの『この子はどこへもやらん』が気になっ

てるんですけど」

「ああ、あれね。私の解釈だけど、昔、鏡はとても貴重なものだったでしょ。ほら、3種の神

器とか」

「3種のインキですか?」

くら子は笑いをこらえて話を続けようとすると、運転手がボソッと言った。

「3種の神器っちゃあ、鏡と玉と剣でしょう」

くら子とまろみが顔を見合わせると、運転手は突然後ろを向いて「わたし、歴男なんです」

「わ、わ、わかりました。前を向いてお仕事してください」

あわてたくら子に、まろみが小声でささやく。

「れきおってなんですか」

聞こえたのか、運転手が説明したそうなので、くら子はあとでと、まろみの口をふさぐ。

 運転手は古事記編纂1300年とつぶやいているが、うしろの二人はお互いに窓の外を見てい

るふりをした。

 着きました。ここでいいですかという運転手に、いいですいいですと言って料金を支払

い、二人はそそくさと車を降りた。

 大きな門のある家だった。

インターホンを押すと、家の裏の方からみかるが小走りで出て来た。

「くら子さん、まろみさん、箱がありました!」

みかるの頭には蜘蛛の巣がついていたが、頬は赤く輝いていた。

「うわォ、大変だあー」

「まろみちゃん、興奮しないで」

 庭を回り、陽だまりの縁側には新聞紙の上に箱が置かれていた。

「この新聞でくるんであったのですけど、箱には鏡と墨で書かれているからまちがいないと

思うんです」

「もう、どきどきしてきた。どうします、くら子さん。開けたらモワモワと煙が出て、くら

子さんが白髪頭のおばあさんになったりして」

「どうしてわたしだけおばあさんなの?」

「そりゃ、わたしとみかるちゃんは、若いからですね。おばあさんではなく、おばさんくら

いになるだろうと…」

「まろみさんて、面白い方ですね」とつぶやくみかるに、くら子はそうなのよねえと答え

た。

「それでは、わたしがおばあさんになるか、開けて見ましょう」

 ざわざわと風に揺らいでいた庭の木のざわめきが止まったように感じた。
 




 ふたを開けると、鏡は影も姿もなく、黄色くなった封筒が出てきた。

表には「みかるへ」と書かれていた。

 みかるへ

 この手紙を読むときには、おばあちゃんはこの世にいません。

たぶん、みかるのことだから鏡を探すだろうと思います。

しかし、この鏡は使い方を誤ると、みかるの命まで危うくなります。

あれば気になるし、使いたくなるでしょう。人間だから当たり前です。

だからこれはおばあちゃんがあの世に持って行きます。

鏡というのは顔や姿を映すだけではありません。

実はその人の心も映しているのですよ。

みかるもお化粧する年頃になれば、度々鏡をのぞくでしょう。

その時に、自分の心も映っていると思ってください。

気持ちよく鏡に向かって笑えるかどうか。

これは特別な鏡でなくてもわかります。

おばあちゃんはみかるが、素直で素敵な女性になることを願っています。

さようなら                  おばあちゃんより


 冷静なみかるに比べ、まろみは子供のように泣きべそをかいている。

「どうしておばあちゃまは、わたしが鏡を探すってわかってたのでしょう」

手紙を握って首をかしげているみかるにくら子は答えた。

「探さなければ、この手紙は読まなかったし、わからなかったでしょうね。だけどおばさま

はみかるちゃんに鏡の話をしたことを後悔しておられたのかも?」

「どうして?」

「さあ、どうしてでしょう。世の中には知らない方が幸せということもあるのかもしれな

い」

「そんなの変です」

「そうかもしれないわね。ただ、おばあさまはこうする方がよいと思われたんじゃないかし

ら」

 みかるの目にみるみる涙があふれてきた。

 みかるに別れを告げ、門を出るとまろみがしゃべりだした。

「今回のことはいったいなんだったのですか。わたしにはさっぱりわかりません」

「さあねえ、わたしにもわかりません。触らぬ鏡に祟りなしってね」

「それは鏡でなくて、神でしょ。それくらいわかりますよ。ふん」

「そう尖がらずに、機嫌を直して駅前のお汁粉屋に寄りましょうか」

「今日はくら子さんのおごりですから」

 1か月後、みかるから手紙が来た。

 くら子さん、まろみさんお元気ですか。

この前はありがとうございました。パパにおばあちゃまの手紙を見せて、鏡の話をしたら驚

いていました。そして、そろそろ蔵の荷物を整理するかと言い出しました。

夏休みにパパと二人で片付ける予定です。(ママはいやだそうです)

 それから、教えてもらったコインのこともいろいろ調べました。

歴史とか成分や、希少価値などすごく面白いです。学校へ出したレポートもAで、みんなの前

でほめられました。

 そしたら、同じクラスの勝則君がコインに興味を持っていて、話が合い、みんなの家の古

いコインを調べようと言い出したので、調査をしています。わたしたちはコイン探偵です。

 あ、ママが帰ってきたので、おしまいにします。

さよなら                  みかる


「みかるちゃんも元気そうでよかったですね。それにカレシもできたみたいだし」

「そんなこと書いてあった?」

「そりゃ、わかりますよ」

「いろいろあったけど、今度のことで、おばあちゃまの遺品を片付けられるのが一番の効用

かもね」

「わたしやっぱり思うんですけど、のぞくと美人になる鏡があれば売れますよ。美女鏡と名

前をつけて。ほら、プチ整形より楽ですから」

「それでまた、『鏡よ鏡、一番美しいのはダーレ?』になるわけ」

「何かに書いてありましたけど、人間がこんなものがあればいいなと思っているものはいつ

か科学の進歩で実現するって」

「それは確かにそうかもしれないけど…長生きしてください」

がんばります! とまろみは力強くガッツポーズをした。

 その夜、くら子は自宅の押しれの中から取り出した箱を開けて祖母の形見の鏡を取り出

し、覗き込んだ。

これでよかったのかな、おばちゃんとつぶやきながら、鏡を磨いた。


 





鏡や人形など、粗末にしてはいけないと育った人も多いと思います。

歴男は歴史好きな男性で、女性は歴女。



 








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